マルコムX

 

マルコムX [DVD]

マルコムX [DVD]

 

 結構思い切った作品だと思う。黒人差別に抵抗する、その思想が過激である。もちろん差別はいけないが、差別を受けた側が暴力で報復することもまたいけない、というのが、まあふつうの考え方である。差別の実態を知らない甘い考えと言われればそうだろうが、差別される側が差別する側を「許し」たり、差別する側が「目覚め」たりするのが、まあふつうの映画である。

だが、この映画では黒人は徹底して白人を敵視する。和解や寛容の精神はない(かといって、暴力で白人に対するシーンもないのだけど)。そして、イスラム教だけが真理であると宣言もする。

世界には無数の宗教があり、それぞれにそれぞれの真理や善惡がある。どの宗教も自分の教えが正しいと思っているのだから、「こっちが正しい。お前はまちがっている」と言い争いをしても、解決するはずがない。せいぜい、互いの宗教には干渉せずに、なんらかの妥協の中で付き合っていく、あるいは全くつきあわずに生活をしていくことしか、できることはない。

唯一解決策があるとすれば、ある宗教が他宗教を撲滅し(それは暴力的にしかなしえない)、地球上にひとつの宗教しかなくなれば、真理も正義も善悪も地球上には一種類しかないことにはなる。ただ、そんな世界に住みたいとは思わない。

話が脱線したが、この映画は面白い。ストーリーは十分エンターテインメントである。スラムの黒人悪ガキがヤクザのボスに取り入ったり、殺されそうになったり、ロシアンルーレットが出てきたりとか、前半部分はクライムムービーだと言っていい。

主人公が収監されて、ある囚人に教えを受けたときから、ストーリーは第二部になる。そこでは、マルコムは過激な思想をストレートに発するが、不思議と嫌悪感はなく、むしろ痛快な気分になる。

そして第三部。師の堕落、先輩の俗物化、活躍するナンバー2の排斥。組織が大きくなればこそ起きがちなスキャンダルのあと、主人公は暗殺される。

そんなこんなを全部盛り込んだから映写時間は長い。

そして、特筆すべきは、極端で過激な思想(白人への敵対心など)を正面切って、それも、その思想を肯定するかたちで映画を作ったスパイク・リーの勇気がすばらしい。