幻影の書

幻影の書 (新潮文庫)

幻影の書 (新潮文庫)


ポール・オールスターの名前を知ったのは、matogrossoの「日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト」の元ネタがポール・オースターだと紹介されていたからだが、それまでまったく知らない作家だったので、とりあえず『幽霊たち』
幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)


を読んでみたら、あらまあ、僕の好みにほぼドンピシャだった。それで、もう1冊ということで、今回『幻影の書』を選んだのだけど、これもまたすばらしい作品だった。
アラを探せばアラは必ずあるもので、例えば、拳銃の暴発で人が死んだり、突き飛ばした人が死んだり、と事故と言っていい死に方がこの作品には2回出てくる。現実世界の中ではそんな偶然は滅多に起こらないし、繰り返しは小説の世界では退屈を呼ぶ。あるいは、愛妻と子供2人を事故で無くして人格が壊れるほど打ちひしがれた主人公が、3日間いっしょにいた女を簡単に愛する。長い短いの問題でないのはわかるけれど、あれほど嘆き悲しんでいたのはいったいなんだったの?そんなに浮かれちゃってさ、くらい言ってやりたくなる。
など、アラはあれども、この小説が素晴らしく面白いことは間違いない。思わぬ展開に惑わされたり、劇中劇と言えばいいのか小説の中で紹介される映画がまた面白そうだし、訳者の力量なのだろう、適度に軽くリズミカルな文体も心地よい。
ということで、ポール・オースターはさらにもう1冊読んでみたくなる作家である。