共喰い

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]


芥川賞受賞作をお安く買えるので単行本でなく文春を買っているこの頃。しかも、今回は2作も載って。
昨年の朝吹真理子の『きことわ』(って、貴子(きこ)と永遠子(とわこ)で「きことわ」なんて、まるで「こぶくろ」じゃないですか)でウンザリさせられた芥川賞ですが、今回は順当だったと思います。私レベルでみたとき、とても分りやすい作品でしたから。
ただ、(この作品に限らず)小説(とか文学)ってなんなんだろうなと、最近よく思うのである。セックスのとき女を殴って喜び、それを悪びれることのない父親。息子も同じように女を殴るけど、息子はそういう自分を怖れている。息子を捨てた母はあっけらかんとし、そういう母に会いに行くことが普通の息子。息子の彼女は息子の父に犯されたあと冷静に見え、冷静なままその者の死を願う。
こんな具合に、登場人物の全てが、現実世界には(少なくとも僕の周りには)いないような人だらけなのである。「お前の周りにはいなくとも、世界にはこういう人間たちがいる」と言われれば、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そもそも小説とは、普通の小市民が暮らす世界とは異質な世界を描くものなのかもしれない。
小説から僕は何かを得ようとしているのか、小説ってただの時間つぶしなのか、なんのために小説を読んでいるのか分らなくなってしまった(というより、最初から分っていないのだけど)。