マザーズ

マザーズ

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前半は完全に育児小説。赤ちゃんを育てたことのある人なら誰でも、「あるある、それ」って共感を覚えるエピソードがてんこ盛りである。登場人物が3人もいるものだから、どのエピソードが誰のものなのか覚えきれなくて、読書ノートを作りながら読み進めたほうがよかったかなと思いつつ、そこまでして読書なんかしたくないやい、と自分に反論していたら、後半は三者三様の人生が描き出されるので、もう混乱することはない。
五月が浮気相手の待澤と別れて夫の亮とヨリを戻すのは、夫と過ごした時間の長さと夫との間にできた娘の存在あるいは不存在が原因(あえて「原因」と言おう。実も蓋もないが、一緒に過ごし、記憶とか経験を共有することが愛情の基本なのである。少なくとも女にとっては。)であって、残念ながら待澤に勝ち目がないというのはちょっと哀しい。
金原ひとみが『蛇にピアス』で綿矢りさの『蹴りたい背中』と芥川賞ダブル受賞したときの表彰式(?)の光景が記憶に残っている。と言っても、その場にいたわけではもちろんなく、たぶん雑誌に掲載された写真を見ただけの記憶だと思う。見たとおりに記憶しているわけはないが、自分の勝手な記憶の中では、綿矢は清楚な白のワンピースをまとい、清楚な佇まいで写真に写っており、金原はそれとは対照的にゴスロリ風の露出が多く黒い衣装で、ミニスカートに膝上のソックスを履いて、左足に重心を乗せて右足を伸ばし、言ってみれば性的に挑発的な服装と姿勢だったと思う。重ねて言うが、これは、自分の脳ミソの中で脚色された可能性のある記憶である。