苦役列車

面白い。もう『きことわ』がなぜ同じ賞をもらったのか分らないくらいに『苦役列車』は面白い。
が、西村賢太さんの他の作品を読むかというと、もう読む気はない。読めば面白いだろうとは思うが、その面白さには謎がない。驚きがない。ファンタジーがない。ただ、面白いだけなのである。
そういう意味では朝吹真理子さんの作品なら『きことわ』以外のものを読む可能性がある（ほとんどないとは思うが、まだしも）。それは、あれほど面白くない作品が芥川賞を獲ったというのが僕には不思議だから、それを確かめたくて読むということでもある。
『苦役列車』に話を戻せば、私小説というところにもひっかかりがある。ノンフィクションならまだいい。事実の重みというか確としたものがある。しかし、事実を下敷きにフィクションとして書いたものが私小説なのだと思うが、それはなんか逆にウソっぽい気持ちにさせられてしまう。大江健三郎が自分や自分の息子らしき人物を小説に登場させるようになったころ感じたように。