ノルウェイの森

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)


単行本上下巻のうち一方を失くしてしまったので文庫本で買いなおす。
二十数年も読み返さなかったのは読むと辛いと思っていたからだが、実際に読み直してみると特に辛くはなかった。なんで辛いなんていう記憶が残っていたのか分らない。それとも若いときは辛かったことが年をとって気づかなくなったのか。
それはさておき、たいへん面白うございました。
なぜ面白いかというと、端的に言って、この本がポルノ小説だからです。よく言えば恋愛小説ですが、実態はポルノ小説です。中高生男子だったら、これで何回もヌケると思います。スポーツ新聞のポルノ小説ほど濡れ場(という言い方はとても古臭いですが…)の頻度はないですが、濡れ場とノン濡れ場の比率だけがポルノかそうでないかを決める要因ではありません。そして、ノン濡れ場も面白く読ませてくれるからポルノじゃないように扱われていますが、逆に濡れ場がなければこの小説がこれほど売れたとは思えません。
なぜ、この本(あえて「作品」という言い方はしません)がポルノかという証明として一つ挙げるとすれば、緑から告られ、緑が好きだと自覚した主人公がたいして苦悩する間もなく直子が自殺することがあります。この本が文学であろうとすれば、直子を愛し、緑をも愛してしまう主人公の苦悩を書かずしてどうする?、です。直子を簡単に自殺させてしまうのは、ポルノ小説には苦悩が必要ないからです。死んでしまったあと主人公は放浪しますが、それは小説を手仕舞いするための方策でしかないのです。
それに、主要登場人物はすべて少女マンガのキャラと思ってよろしい。こんなストイックな(きちんと授業に出て、空いた時間に図書館で勉強したり、マスターベーションを途中で止めてしまったり、永沢さんとの女遊びに虚しさを覚えるような)青年を僕は知らないし、卑猥な妄想を男友達(主人公)に対して吐き続けるかわいくて若い女も知らないし、図抜けて頭がよくて女にもてて残酷な男も知らない。そんな連中は少女マンガの中にしか存在しないのです。